日本のキャッシュレスの歴史|今後の拡大に対してどのように備えるべきか?

2020/05/01

日本のキャッシュレスの歴史|今後の拡大に対してどのように備えるべきか?

日本国内におけるキャッシュレス決済比率は世界と比べて低く、キャッシュレス化は遅れているのが現状です。それには、歴史的・社会的背景があると同時に、日本の国民性も関係していると考えられます。しかし、今後は日本でも、あらゆる場面でキャッシュレス決済が普及していくでしょう。

本記事では、これまでの日本におけるキャッシュレスの歴史を振り返りながら、今後の進展・予測について解説します。

この記事の目次

日本におけるキャッシュレス決済比率は、2015年時点で18.4%です。キャッシュレス先進国である韓国(89.1%)、中国(63.9%)、スウェーデン(48.6%)などと比べて圧倒的に低い状況であることが分かります。

■各国のキャッシュレス決済比率の状況(2015)
各国のキャッシュレス決済比率の状況(2015)

出典:経済産業省『キャッシュレス・ビジョン』

決済手段の内訳については、日本はキャッシュレス先進国と比べて、クレジットカードの占める割合が相当高く、デビットカードやモバイル決済の普及率が低いことが特徴です。

■各国のキャッシュレス手段別民間最終消費支出に占める割合(2015)
各国のキャッシュレス手段別民間最終消費支出に占める割合(2015)

出典:経済産業省『キャッシュレス・ビジョン』

1-1. 日本では早い段階でクレジットカードが普及

日本では19世紀後半には、百貨店を中心に月賦販売が導入されていました。1951年には、日本における初めての信販会社「日本信用販売株式会社」(後の日本信販)が設立され、1963年からショッピングクレジット(個品割賦購入あっせん)が開始されました。

さらに、1960年12月に設立された日本ダイナースクラブが、日本で初めての多目的クレジットカードを発行。1961年1月には、三和銀行と日本信販の折半出資により、日本クレジットビューロー(後のJCB)が設立されます。こういった流れの中、割賦販売はクレジットカード(総合割賦購入あっせん)へと移行していきます。

このように、日本では早くからクレジットカードが普及してきました。実際、国内のクレジットカード発行枚数は多く所有率も高いといえますが、決済全体に占めるクレジットカードの比率は世界と比較すると高い水準ではありません。

■各国におけるクレジットカード発行枚数(2016)
各国におけるクレジットカード発行枚数(2016)
■各国の民間最終消費支出におけるクレジットカード決済比率(2016)
各国の民間最終消費支出におけるクレジットカード決済比率(2016)

出典:日本クレジットカード協会『日本におけるキャッシュレス化の現状と推進要因の分析』

ひとつの要因としては、日本の金融システムが銀行主体であったことが挙げられます。従来から通信料金や公共料金、保険料金といった支払いは金融機関からの自動引き落としが主流でした。この流れで、クレジットカードの最終的な支払いも、金融機関からの自動引き落としによる1回払いというのが定着していきます。

つまり、日本におけるクレジットカードは、現在のデビットカードのような感覚で使われてきたといえるでしょう。

1-2. 日本ではデビットカードの普及が遅れている

世界的に見ると、クレジットカードに次いでキャッシュレス決済を支えているのが、デビットカードです。イギリスやアメリカでは、特にデビットカードの利用が増えています。

2016年時点における民間消費支出に占めるデビットカードの決済比率は、イギリスで56.6%、スウェーデンで39.9%、フランスで35.8%、アメリカで20.2%でした。なかでも決済に占めるデビットカード決済の比率がクレジットカードを上回る国は、イギリス、スウェーデン、フランスをはじめ数多くあります。

一方、日本ではデビットカードの決済比率は0.1%に過ぎず、利用は未だ限定的です。しかし、日本の1人当たりデビットカード保有枚数は3.32枚で、中国の4.09枚に次いで世界で2番目。決して保有枚数が少ないわけではありません。

■各国の民間最終消費支出におけるクレジットカードとデビットカードの決済比率(2016)
各国の民間最終消費支出におけるクレジットカードとデビットカードの決済比率(2016)
■各国におけるデビットカード発行枚数(2016)
日本クレジットカード協会『日本におけるキャッシュレス化の現状と推進要因の分析』

出典:日本クレジットカード協会『日本におけるキャッシュレス化の現状と推進要因の分析』

デビットカードには、銀行のキャッシュカードをそのまま買物で利用できる「J-Debit」と、国際ブランド加盟店で利用できる国際ブランド付きデビットカードの2種類があります。保有状況の調査には前者の「J-Debit」もカウントされているため、見かけ上のデビットカード保有枚数が多くなっているのです。

日本においてデビットカードの普及が遅れた理由は、主に3つ考えられます。

1つ目は、銀行キャッシュカードにデビットカード機能が付いているという認識が、消費者に浸透していないこと。

2つ目は、デビットカードを利用するメリットが少ないことです。クレジットカード代金の1回払いが多い日本では、あえて同じような支払い方法であるデビットカードを選択する必要があまりありません。

3つ目は、銀行法上の問題です。1982年の改正以前の銀行法では、クレジットカード業務は銀行本体の付随業務ではなく、周辺業務と規定されていました。そのため、銀行はクレジットカードや国際ブランド付きデビットカードを発行できなかったのです。ノンバンクがクレジットカード業務を担って利用者を増やしていくなか、銀行は参入に後れを取ってしまったため、デビットカードの普及が遅れたと考えられます。

1-3. 日本では電子マネーが独自の発展を遂げている

日本のキャッシュレス決済のうち、独自の発展を遂げているのが電子マネーです。日本の電子マネー利用額は世界最大で、キャッシュレス決済に占める割合も相対的に高くなっています。

電子マネーの普及に貢献したのが、ソニーが開発した非接触ICカード技術「Felica」です。2001年にJR東日本のIC乗車券「Suica」に採用されたのを皮切りに、多くの人が日常的に行き交う各地の交通機関で乗車券として利用されてきました。

そして2002年以降、大手コンビニなどで「Felica」をベースとした電子マネー「Edy」の決済システムの導入が進んでいき、非接触ICカードによる決済に対応した店舗の数が大幅に増加したのです。このように非接触ICカード技術の利用が拡大していったことが、国内における電子マネー普及の要因として挙げられます。

1-4. 最近ではQRコード決済やアプリ決済の利用率が高まっている

最近では、スマートフォンの普及に伴い、QRコード決済などのスマートフォン決済の利用率が高まっています。特に、スマートフォン決済の代表的な存在であるPayPay、楽天ペイ、LINE Payは大規模なキャンペーンを打ち、利用者数を伸ばしている状況です。

QRコード決済は様々な機能を持っています。インターネット上で決済が完結できる利便性はもちろん、クーポンをはじめとする割引や優待を事業者が自由に追加できるといった汎用性の高さも魅力です。また、POPやポスターなどのアナログなメディアでも情報を伝達できるためクロスメディア展開にも適しています。

現在では、スマートフォン決済各社のキャンペーンや、経済産業省による「キャッシュレス・消費者還元事業」などの後押しを受けて、スマートフォン決済の利用は拡大傾向にあります。また、政府や自治体が、中小・小規模事業者の生産性向上や地域経済の活性化に向けて、QRコード決済を活用したキャッシュレス決済の拡大に取り組んでいることも、普及の追い風になっています。

ただし、WeChat PayやAlipayの利用者が多い中国や、Swishが普及しているスウェーデンなどのキャッシュレス先進国に比べると、日本国内におけるキャッシュレス決済の普及はまだまだこれからという段階です。

日本でキャッシュレス決済の普及が進まない背景には、いくつかの事情があるようです。ここでは、事業者側の課題、種類の多さ、消費者心理というポイントから解説します。

2-1. キャッシュレス決済可能な店舗が少ない

日本国内において、キャッシュレス決済が可能な店舗はそれほど多くないのが実情です。経済産業省が2017年に発表した資料によると、主なサービス業におけるカード決済可能な店舗の割合は、スーパーマーケットで71%、フランチャイズ店で63%、タクシーで51%、旅館で90%となっていました。

事業者側がキャッシュレス決済の導入に踏み切れない背景としては、3つの課題が挙げられます。

1つ目はコストの問題です。キャッシュレス決済に対応するには、必要な設備を導入しなければなりません。設備の導入には初期費用がかかり、月額利用料や手数料も発生します。

2つ目は運用や維持の問題です。設備やシステムのメンテナンスには手間や費用がかかりますが、小規模事業者はそのためのリソース確保が難しいこともあるでしょう。

3つ目は資金繰りです。キャッシュレス決済は、決済事業者から売上が入金されるまでタイムラグがあるため、その間の運転資金が不足しがちになるという課題があります。

野村総合研究所による「現金・キャッシュレス決済に関するアンケート調査(2018年1月)」によると、店舗が支払うカード決済の平均的な手数料は約3%となっています。諸外国に比べると高めで、事業者側にとって負担は決して小さくありません。

カード決済の手数料率(N=304)

出典:野村総合研究所『キャッシュレス化推進に向けた国内外の現状認識』 のデータをもとにDGフィナンシャルテクノロジー(DGFT、旧ベリトランス)が作成

事業者としては、キャッシュレス決済導入による手数料やオペレーション面でのコスト負担に対して、「売上アップや客数増というメリットを本当に享受できるのか」という疑問があり、キャッシュレス導入になかなか積極的になれないと考えられます。

2-2. 決済手段が乱立している

キャッシュレス決済手段が乱立していることも普及の妨げになっています。日本におけるキャッシュレス決済提供事業者は非常に多く、例えばキャッシュレス・消費者還元事業に登録されている決済事業者は1,000社を超えます。種別としてはクレジットカード決済の割合が圧倒的に多いものの、それ以外の電子マネーやQRコード決済、デビットカードなどはシェアも分散しています。

このような状況がある中で、事業者側は消費者のニーズに合わせて幅広い決済手段を導入しなければなりません。体力のある大規模事業者ならまだしも、中小の事業者には対応するリソースが足りず、導入の妨げになっているのです。

2-3. 消費者のキャッシュレス決済に対する不安感

また、消費者側がキャッシュレス決済に対して不安感を持っていることも課題です。日本の家計金融資産残高に占める現金・預金の割合は50%に上ります。日本は諸外国に比べて、まだまだ「現金主義」な国民性が見られるのです。

キャッシュレス決済に対しては、便利なものという認識よりも、不安に思う傾向が根強くあります。例えば、使い過ぎやセキュリティ面が心配だという認識は、依然として存在する状況です。キャッシュレス決済に対応している店舗がまだまだ少ないこともあいまって、現金のほうが便利で安心だという考えも残っています。

特に、ITリテラシーに不安のある高齢者が取り残されているのが現状です。これはキャッシュレス先進国のスウェーデンで指摘されている問題でもあります。今後キャッシュレス決済がさらに普及していくためには、誰もが使いやすい仕組みを整えていく必要があるでしょう。

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キャッシュレス先進国に比べると普及率が低い日本ですが、今後は普及が拡大していくことが見込まれています。ここでは、今後の予測を紹介した上で、消費者ニーズ、政府自治体や事業者による推進施策について解説します。

3-1. キャッシュレス決済の市場規模は拡大する見通し

カード・ウェーブ社の調査によると、クレジットカード業界の市場規模は2020年には約73兆に上ると予測されています。日本政府は、2019年10月の消費増税に合わせて「キャッシュレス・消費者還元事業」をスタートさせ、キャッシュレス決済の利用は想定を上回るペースで拡大しています。こうした行政の後押しもあり、2025年には約93兆円まで膨らむと試算されているのです。

さらに、クレジットカード決済、デビットカード決済、そしてプリペイドカード決済を含めた電子決済の市場規模は、2020年には87兆円を突破。5年後の2025年には約113兆円に達し、国内の電子決済化率は37.9%まで進展すると予測されています。

■電子決済比率の変動予測
電子決済比率の変動予測

出典:株式会社カード・ウェーブ『2020年の国内電子決済市場は87兆円を突破(ニュースリリース)』

3-2. 消費者からのキャッシュレス対応ニーズも高まっている

消費者のキャッシュレス決済に対するニーズも増えている状況です。

2019年の日本クレジットカード協会の調査によると、キャッシュレス決済に対応をしていない店舗を「明確に避ける」もしくは「避ける」ことがあると回答する人が、全体の4割に上っています。

キャッシュレス決済に対応していない店舗を避けることはありますか?

出典:日本クレジットカード協会『キャッシュレス社会の実現に向けた 調査報告書』

また、2017年発表の観光庁による調査では、外国人観光客が旅行中に困ったことの第5位が両替(16.8%)で、第6位がクレジットカード・デビットカードの利用(13.6%)でした。日本への来訪者が多い中国や韓国はキャッシュレス先進国なので、特にキャッシュレス対応へのニーズが高いと考えられます。

事業者側は販売機会の損失を避けるために、国内のみならずインバウンド需要も見込んだ幅広い決済手段への対応が求められます。

■訪日外国人が旅行中に困ったこと(複数回答)
訪日外国人が旅行中に困ったこと

出典:観光庁『「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に 関するアンケート」結果』

3-3. 政府や自治体、決済事業者によるさまざまなキャッシュレス推進施策

政府や自治体、決済事業者などは、キャッシュレス決済を推進するためにさまざまな施策を講じています。例えば、各種税金の支払いにキャッシュレス決済を利用できる自治体もあります。キャッシュレス・消費者還元事業では、事業者の決済端末の導入費用や、決済事業者に支払う手数料を一部補助するなど、充実したサポート体制です。

また、乱立するQRコード決済については、標準化と手数料の低廉化が検討されています。これまで国内の決済サービス会社が個別に発行していた「QRコード」の規格を統一する「JPQR」という取り組みもスタートしました。

デジタルガレージでも、複数の決済を1つのバーコードにまとめる「Cloud Pay(クラウドペイ)」を提供しています。現在はd払いやAlipayなどに対応しており、今後はWeChat Pay、メルペイ、LINE Payにも対応する予定です。

事業者側にとって導入のネックになってきた手数料についても、PayPayやSquareなど、導入費用や決済手数料を割安にすることで普及を促進する事業者も増えています。

Cloud Pay(クラウドペイ)

PayPay

Square

キャッシュレス化は単なるトレンドではなく、今の日本社会にとって重要な課題です。現在、現金決済のインフラを維持するために、年間約1兆円を超えるコストが発生しており、その負担は小さくありません。また、人口減少によって人手不足が加速するなかで、キャッシュレス社会の進展は生産性向上に寄与することが期待されているのです。

訪日客の存在も無視できません。2020年に東京オリンピック・パラリンピックもあり、今後はインバウンド需要のさらなる拡大が見込まれています。日本政府は「観光立国」政策を推進し、2020年には訪日外国人旅行者数を4,000万人に増やし、8兆円規模の消費市場を生むことを目標としています。

インバウンド対応で課題になるのはキャッシュレス決済です。先述の通り、中国や韓国を筆頭に、海外では日本よりもキャッシュレス決済が普及しています。事業者が多様な決済ニーズに対応することは急務といえるでしょう。「日本再興戦略(2016年版)」では、主要観光地におけるキャッシュレス決済の普及率を100%にすることや、決済端末のIC対応が新たな目標として加えられました。

もちろん、国内の消費動向も重要です。今後はさらにEC市場やオムニチャネルコマース市場が発展すると見込まれています。消費者がストレスなく、スムーズに買い物ができるように、実店舗とECがともに幅広い決済方法に対応していく必要があるのです。

DGフィナンシャルテクノロジー(DGFT、旧ベリトランス)では、総合決済代行サービス『VeriTrans4G』をはじめ、多様化する決済ニーズへの対応を支援するソリューションを幅広くご用意しています。今後も需要拡大が見込まれるオムニチャネルコマース市場や、各種国際決済への対応も可能です。キャッシュレス決済導入による販売機会の拡大をトータルにサポートします。

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