ヘッドレスコマースとは?仕組みやメリット・デメリットを解説

2022/02/18

ヘッドレスコマースとは?

ヘッドレスコマースとは、ECサイトのフロントエンドとバックエンドを切り分けることで、フロントエンド開発の柔軟化・効率化を実現できる仕組みです。

パソコンやスマートフォンのブラウザ経由でアクセスするECサイトだけでなく、モバイルアプリなどECチャネルが多様化する現在、ユーザーの購買体験を向上させる手段として期待されています。

本記事ではヘッドレスコマースの仕組みやメリット・デメリット、事例や成功のポイントを解説します。

この記事の目次

ヘッドレスコマースとは、ECサイトにおけるユーザーとの接点である「フロントエンド」と、ECの裏側の機能部分である「バックエンド」を分離させて開発・運用する設計思想(アーキテクチャ)です。

ヘッドレスコマースの「ヘッド」はフロントエンドを指しますが、実際に「ヘッドレス=フロントエンドがない」というわけではなく、バックエンド側の制約を受けずに独立したフロントエンドを自由にカスタマイズしてユーザーに最適な購買体験を提供することを目指す考え方です。

従来のECサイトとの違い

従来のECシステムは、フロントエンドとバックエンドが一体化しており、シンプルな構成なので、導入や保守にかかる手間とコストを抑えやすいという特徴があります。

なお、従来のECサイトもフロントエンドとバックエンドに分けて考えることができますが、実際には明確に線引きがされているわけではなく、システム全体を通して密接に連携しているのが普通です。

例えば、ユーザーが触れるECカート機能をカスタマイズしようと思っても、バックエンドと密接に絡み合っているために改修が困難であったり、バックエンド側のカスタマイズも必要となったりするなど、制約が生じることがありました。

ヘッドレスコマースの仕組み|APIがアーキテクチャの根幹

ヘッドレスコマースでは、バックエンド(ECシステム)とAPI連携することで、フロントエンドを独立して開発することが可能となります。

API(Application Programming Interface)とは、異なるアプリケーションやソフトウェア同士をつなぐ仕組みです。ヘッドレスコマースでは、フロントエンドとバックエンドをAPI連携する方式を採ることで、フロントエンドは独自のカスタマイズを施しながら、バックエンドは外部のECシステムの決済機能や商品・在庫管理機能を利用して構成を最適化できます。

ECシステムに依存せずに見た目や顧客体験を最適化できる

ECサイトの売上を最大化させるためには、ユーザー体験に関わるUI/UXの最適化が不可欠であるといえます。しかし従来のECシステムでは、具体的な改善策があってもフロントエンドだけを自由にカスタマイズするのは難しく、システム担当者やECシステムのベンダー企業に依頼する必要がありました。

その際、フロントエンドの微細な調整であったとしても、システム全体が密接に関係していることが原因で、システムの改修に高額な改修費用や時間が必要になったり、バックエンド側の制約によって希望する改修ができなかったりするケースも珍しくありません。

一方、ヘッドレスコマースによってフロントエンドを分離させれば、ECシステムの制約が格段に減り、従来のECシステムと比べて売上や顧客満足度を最大化させるためのUI/UX最適化施策をより自由に、かつスピーディーに行うことができます

ECサイトの開発・改善を効率化できる

フルスクラッチ(ゼロからシステムを開発する方法)やオープンソース(無償公開されているソースを活用して開発する方法)でECサイトを自社開発している場合は、エンジニアが決済や受発注、顧客管理、配送、セキュリティといったシステムの基盤となるバックエンドの開発・保守に追われてフロントエンドの改善に十分な手を掛けられなかったり、バックエンド側の改修を待たないとフロントエンドの開発に着手できなかったりする問題が発生します。これではUI部分の開発や改善施策が遅れてしまいかねません。

一方、ヘッドレスコマースなら、バックエンドの開発は外注して、自社エンジニアは売上を最大化させるためのフロントエンドの開発に専念するといった効率的な体制を構築可能です。そのため、新しい技術やトレンド、市場ニーズの変化に柔軟かつスピーディーに対応できます

幅広いチャネルに展開してユーザーとの接点を増やせる

ITの発展やスマホの普及により顧客の購買行動は多様化しており、ECサイト運営にあたっては「Webブラウザで検索してECサイトにアクセスする」といった従来の方法だけでなく、実店舗や広告はもちろん、モバイルアプリやスマートスピーカー、スマートウオッチ、SNS、デジタルサイネージなど多様な接点(タッチポイント)を意識する必要があります。

ヘッドレスコマースなら、APIを活用することでこうしたさまざまなチャネルにとも比較的容易に連携できます。「各チャネルに既存ECシステムが対応できるかどうか」を気にすることなく、フロントエンドの開発に集中できる点も魅力です。

顧客に合わせてECサイトを複数構築することも可能

ヘッドレスコマースでは、複数のブランドや商品カテゴリを取り扱っているというケースでも、個別にECサイト(フロントエンド)を構築・メンテナンスすることが容易です。ブランドやカテゴリごとのコンセプトやターゲットに合わてUI/UXを最適化でき、それぞれAPI連携でECシステム(バックエンド)に情報を渡せばデータも一元管理できます。

例えば、市場トレンドに乗って売上が伸びている部門のサイトを一時的に独立させたり、新しく立ち上げたブランドのオンラインポップストアを展開したりといった、柔軟なマーケティング戦略も実現可能です。

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従来のECシステムからヘッドレスコマースに移行するには、時間とコスト、API連携などへの技術的な理解が必要です

また、運用する上でフロントエンドとバックエンドの両方を管理しなければならないため、開発テストなどの点で工数が増えることが想定されます。

さらに、ヘッドレスコマースに移行してフロントエンドの開発に専念したとしても、自社にWebマーケティングやUI/UX改善のノウハウがなければ、コストに対して期待した結果が得られない可能性もあるため注意が必要です。

画像引用元:Koala Sleep Japan 株式会社『コアラマットレス・家具』

オーストラリアのマットレスD2Cブランド「Koala(コアラ)」は、ヘッドレス化に対応したECプラットフォームShopifyをフロントエンドとして、CMSや決済、在庫といったバックエンド機能をそれぞれ複数のシステムにAPI連携させてヘッドレスコマースを実現しています。

これにより、

  • ECサイト本体ではなく別途PWA(モバイルサイト上でネイティブアプリのようなUXを提供する技術)でサイトを構築して素早くコンテンツを配信できる
  • ECサイトの負荷を軽減して処理を高速化できる
  • 同じコンテンツページでもチャネルによって最適な顧客体験を提供できる

といったメリットを実現しています。

出典:Shopify Japan 株式会社『ヘッドレスコマース入門:ネットショップはヘッドレス化するべき? — Shopify開発者【2022年版】 - Shopify 日本』

Lancôme(ランコム)

ロレアル社の高級化粧品ブランド「Lancôme(ランコム)」は、モバイルから流入する顧客の増加に対応するため、ヘッドレスコマースへの切り替えを実施しました。さらに、モバイルでのコンバージョン率がパソコンより低かったことを受けて、PWAでより直感的で没入感のある顧客体験を実現した結果、コンバージョン数が17%増加したのです。

出典:Shogun Labs, Inc.『Shogun | Ecommerce Website Builder and Headless Commerce』

構築方法

ヘッドレスコマースを実現するには、フルスクラッチで一から開発するか、ShopifyやSI Web Shoppingなど、ヘッドレスコマースに対応したECシステムを採用する方法が考えられます。しかし、現状ではヘッドレスコマースのサービスは普及しておらず、ヘッドレスコマースに対応しているシステムの選択肢は多くありません。

開発・運用体制の確立

ヘッドレスコマースは、フロントエンドとバックエンドが分離するため自由度が高まるのは確かですが、管理運用やテストなどの工数は単純に考えて倍になるため、導入する際は開発体制の確立や生産性の確保が不可欠です。

信頼できるバックエンドシステムの選定

また、留意したいのは「ECサイトの機能基盤はバックエンドにある。」という点です。いくらフロントエンドをカスタマイズしてUIを改善しても、API連携先の受発注管理、在庫管理、顧客管理、決済といったバックエンドの機能に柔軟性がなく、顧客体験を向上させられる仕組みでなければ意味がありません。

さらに、API連携で機能を自由に選択できるといっても、ECの基盤となるバックエンドのシステムを途中で入れ替えるのは簡単にはできないため、ヘッドレスコマースによって実現したいことを中長期的に検討した上でシステムを構築することが重要です。

ヘッドレスコマースはアマゾンやウォルマート、ナイキなどの大手BtoC企業において導入されている状況ですが、現状は費用対効果が見込めるだけのWebマーケティングのノウハウやリソースがある大手企業での利用にとどまっています。

ただし、欧米ではヘッドレスコマース機能を提供するECシステムは増えており、さらにローコード・ノーコードでフロントエンドを構築できるShogunというサービスがアメリカで登場するなど注目度が高まっています。今後は中小EC事業者でもヘッドレスコマースの普及が進む可能性があります。

出典:Shogun Labs, Inc.『Shogun | Ecommerce Website Builder and Headless Commerce』

ECの売上は成長傾向にありますが、近年の特徴として、ユーザーはオンライン・オフラインの壁を飛び越えて、さまざまなチャネルを横断して購買行動をとる傾向にあります。例えば、SNSで話題になっている商品を実店舗でショールーミングした上でECサイトで購入するのは典型例といえるでしょう。

そこで事業者は、顧客との多様な接点を確保しながらも、いかにシームレスな(継ぎ目のない)顧客体験を提供できるかが今後の事業運営において重要となります。

前述のように、ヘッドレスコマースは多チャネル化に役立つものの、導入には開発体制の確保や費用対効果が見込めるだけのWebマーケティングのノウハウなどが必要とされるため、現状は導入企業の数が限られています。そのため、参考となる事例はまだ多くありません。

そのような状況において、事業者はユーザー体験を向上させるための別の選択肢として、国内でも事例の多いOMO(オンラインとオフラインの融合)やオムニチャネル化を検討することもおすすめです。

■オムニチャネルのイメージ
オムニチャネルのイメージ

PayNowID(ペイナウアイディー)

DGフィナンシャルテクノロジー(DGFT、旧ベリトランス)の提供するVeriTrans4Gでは、会員IDとクレジットカード番号を紐付けるPayNowID(ペイナウアイディー)という機能を用意しています。複数サービス・複数サイトを運営している場合でもサービスを横断してスムーズな決済が実現できます

PayNowIDは、会員IDを複数サービスでも共用できるように共有ID化。ユーザーは複数のサービスを一つの会員IDで横断的に利用可能です。サービスごとに課金グループを設定し、課金スケジュールを登録できるため、複数のサービスに対して各々継続課金を行いたいといった場合でも対応が可能です。

オムニPAY

オムニチャネル推進にあたり、商品・在庫情報や販売情報、顧客情報などのデータ統合に加え、決済情報の一元管理が可能なオムニPAYもご提案しています。ECサイトのID情報と決済情報を紐づけることで、店舗・EC双方で決済が可能となります。また、顧客情報と、各チャネルでの顧客の購入情報を紐づけられるため、チャネルを横断したマーケティング施策が可能です。

こうした機能を活用することで、従来のECシステムであっても、各種データを一元管理しつつ、顧客との多様な接点を確保することで、シームレスなストレスのない顧客体験を提供することが可能となります。

DGフィナンシャルテクノロジーでは、PayNowIDやオムニPAYのご提供を通じて顧客のUI/UX向上を支援しています。ご興味のある方はぜひお問い合わせください。

      
システム柔軟性vol.2

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